最初の相続で預貯金が遺産分割されないうちに、相続人の一人が次に亡くなることがあります。この二次相続の申告で、亡くなった相続人が有していた未分割預貯金の持分を計上する際、評価の基準日は最初の相続開始日と二次相続開始日のどちらになるのか。不動産との違いも含めて整理します。
父の相続(一次相続)で、遺産のうち預貯金が遺産分割されないまま数年が経過し、口座も残高もそのままの状態になっていました。その間に、父の相続人であった子の一人(長男)が亡くなりました(二次相続)。長男の相続税の申告では、父の未分割遺産のうち長男の法定相続分(2分の1とします)を長男の財産として計上する必要があります。
このとき、預貯金の評価の基準日は、一次相続の開始日と二次相続の開始日のどちらになるのでしょうか。不動産であれば未分割の持分についても相続開始時点の評価額で評価し直すことになりますが、預貯金についても同じように考えてよいのでしょうか。
相続税法22条は、相続により取得した財産の価額は「当該財産の取得の時における時価」により評価する旨を定めています。二次相続における「取得の時」とは、亡くなった相続人(長男)の相続人がその財産を取得した時、すなわち二次相続の開始日です。財産評価基本通達1(2)も、時価とは「課税時期(相続……により財産を取得した日……をいう。)」における価額であるとしており、二次相続の課税時期は二次相続の開始日となります。
ここで押さえておきたいのは、亡くなった相続人(長男)は、最初の相続の開始時点で、父の預貯金に対する遺産共有持分をすでに現実に取得していたという点です(民法896条・898条・899条)。これは相続税法55条による擬制ではなく、実体的な権利です。その持分が長男の死亡により長男の相続人へ承継され、長男の本来の相続財産として二次相続の課税対象になります(相続税法2条)。相続税法55条が担っているのは、未分割の間にその持分の割合をいくらとして課税価格を計算するか、という量定の役割です。
不動産の場合、宅地は路線価方式または倍率方式で評価し(財産評価基本通達11)、路線価は年分ごとに設定されます。家屋は固定資産税評価額に倍率(1.0)を乗じて評価します(財産評価基本通達89)。したがって最初の相続の年と二次相続の年とでは、路線価も固定資産税評価額も異なる数値となり、評価額そのものが動きます。
預貯金の場合、評価方法は財産評価基本通達203により、課税時期の預入高と、同時期に解約するとした場合の既経過利子の額(源泉徴収されるべき所得税相当額を控除した後)との合計額によります。ただし定期預金・定期郵便貯金・定額郵便貯金以外の預貯金については、課税時期の既経過利子の額が少額なものに限り、預入高のみで評価します。この評価のルール自体は一次相続でも二次相続でも同じで、基準日が二次相続開始日になる点も不動産と同じです。預貯金は路線価のような外部の指標に左右されないため、結果として金額の変動が小さくなるだけです。
実務上、ここが最も注意を要する点と考えられます。「残高がそのままになっている」というのが「入出金がない」という意味であっても、預入高そのものは増えている可能性があります。普通預金や通常貯金は通常、半年ごとなどに利息が元本に組み入れられるため、入出金がなくても残高は増えていきます。定期預金でも、自動継続型のうち元利継続であれば継続のたびに利息が元本に組み入れられます(元金継続型は利息が普通預金へ払い出されるため元本は増えません)。
財産評価基本通達203の「課税時期における預入高」は二次相続の開始日現在の実際の残高を指しますので、最初の相続のときに取得した残高証明書の数値をそのまま流用することはできず、二次相続の開始日現在の残高証明書を新たに取得する必要があると考えられます。これは、亡くなった父名義の口座について長男の死亡日時点の残高証明書を求めるという通常とは異なる依頼になるため、金融機関には数次相続である旨の説明を要する場合があります。
財産評価基本通達203は「解約するとした場合に既経過利子の額として支払を受けることができる金額」と定めており、これは預金契約に基づき金融機関が現に支払うべき金額を指します。最初の相続が開始しても預金契約の内容が変わるわけではなく、口座は元の名義のまま存続していますので、利息計算の起算日は預入日(自動継続型なら直近の継続日)になると考えられます。
したがって、定期預金が元利継続型の自動継続を繰り返している場合、二次相続時点の既経過利子は「直近の継続日から二次相続の開始日まで」の分のみとなり、数年分の利息がそのまま既経過利子になるわけではありません。過去の継続時の利息は、すでに元本へ組み入れられて預入高に反映されているためです。適用する利率も、約定利率ではなく課税時期に中途解約した場合の中途解約利率となります。なお、起算日について通達に明文の定めがあるわけではなく、上記の文言からの帰結であり、実務上は金融機関発行の既経過利息計算書によって確認することになると考えられます。
未分割財産については、相続税法55条が「相続分……に従つて当該財産を取得したものとして……課税価格を計算する」と定めており、これが直接の根拠になります。財産評価基本通達2も、共有財産の持分の価額は「その財産の価額をその共有者の持分に応じてあん分した価額」によるとしており、共有であることによる減価を認める定めはありません。国税庁の質疑応答事例「共有地の評価」も、共有地全体の価額に持分割合を乗じて各人の持分の価額を算出する旨を示しています。したがって二次相続時点の預貯金全体の評価額に持分割合を乗じることになり、未分割であることや共有持分であることを理由とする減額は認められないと考えられます。
持分割合を法定相続分どおり2分の1とするには、前提の確認が必要です。相続税法基本通達55-1は、相続税法55条の「相続分」を民法900条から902条まで及び903条に規定する相続分としています。特別受益(民法903条)や相続分の指定(民法902条)がある場合には具体的相続分となり、単純な2分の1にはなりません。また、相続人の範囲(配偶者の生死、ほかの子の数、代襲相続人の有無)や相続放棄の有無によっても割合は変わります。なお寄与分(民法904条の2)は相続税法55条本文が明文で除外しています。
前提として、預貯金が遺産分割の対象となる(当然には分割されない)ことについては、普通預金・通常貯金・定期貯金に関する最高裁大法廷決定平成28年12月19日、および銀行の定期預金・定期積金に関する最高裁判決平成29年4月6日が判示しています。したがって亡くなった相続人が有していたのは「当然に分割された持分割合の預金債権」ではなく「遺産共有持分」であり、これが二次相続の課税対象になります。
最初の相続から二次相続までが10年以内であれば、相次相続控除(相続税法20条)の適用場面です。最初の相続で亡くなった相続人に実際に相続税が課されていれば適用でき、前回の相続税額のうち1年につき10パーセントの割合で逓減した後の金額を控除できます。最初の相続が基礎控除以下で課税がなかった場合は適用できません。
配偶者の税額軽減(相続税法19条の2第2項ただし書)や小規模宅地等の特例(租税特別措置法69条の4第4項ただし書)は、未分割財産については申告期限から3年以内に分割された場合に限り適用できます。この期限や、やむを得ない事情がある場合の承認申請期限(申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月)を過ぎると、以後どれだけ分割が確定してもこれらの特例は使えなくなります。数次相続の発生そのものは「やむを得ない事情」に当たりにくいと考えられるため、日付ベースでの確認が重要です。
最初の相続の分割が後日確定して各人の取得額が法定相続分と異なることになった場合、最初の相続については相続税法55条ただし書・32条1項1号による更正の請求(事由を知った日の翌日から4か月以内)などで是正できます。しかし二次相続については、静岡地方裁判所平成26年3月14日判決(確定)が、最初の相続の分割確定を理由とする二次相続の更正の請求を否定しています。結果として、二次相続の課税価格が増える方向は課税され、減る方向は救済されにくいという非対称が生じ得ます。これを避けるには、二次相続の申告期限までに最初の相続の遺産分割を確定させておくことが最も安全と考えられます。
数次相続の遺産分割協議では、亡くなった相続人(長男)が取得した財産を確定させておくことが重要です。中間の相続人を飛ばして次の世代が直接取得する形にすると、亡くなった相続人が取得した財産として確定させたものが存在しないことになり、租税特別措置法関係通達69の4-25などの取扱いを受けられないおそれがあります。また、一度成立した分割のやり直し(再配分)は相続による取得とはならず、別途の課税リスクを生じ得ます(相続税法基本通達19の2-8ただし書)。
主な根拠